ゼマイティス・ギターのラインナップの中で、最も広く知られているのがボディトップをメタルプレートで覆ったメタルフロントだろう。
その表面にはゴージャスで芸術性の高いエングレイブが施され、見る人々を虜にする。
ステージでは、まばゆいばかりに輝きを増し、オーラにも似た特別な存在感を放つ。

このメタルフロントが誕生したのは、今から約半世紀前の1970年代初頭のこと。
英国のギター製作者であるトニー・ゼマイティスは、それまで長年アコースティック・ギターの製作を行ってきた。
トニーは1960年代末に、来るべき70年代という新たな時代に向けて、エレクトリック・ギターの可能性を見いだし、その製作を試みていた。
シングルカットのホロウ構造ボディを採用したオールブラック仕上げのプロトタイプを数本製作した後、70年代初頭に6本のメタルフロントを完成させた。
その内の1本を当時フェイセズのギタリストだったロン・ウッドが入手し、またTレックスのマーク・ボランも入手した。
というのが、よく知られたゼマイティス・メタルフロントの誕生にまつわるストーリーである。

実は、このメタルフロントの誕生には、もう一人の有名ギタリストの発言が影響していたことはあまり知られていない。
そのギタリストの名は「エリック・クラプトン」。
クラプトンは60年代後期にスーパージャンボ・サイズの12弦アコースティック・モデル、俗に言うイヴァン・ザ・テリブルをオーダーメイドするなどして、すでにトニー・ゼマイティスとは親しい間柄だった。

ある日のこと、クラプトンが「もしも、シルバーでアコースティック・ギターを作ったとしたら、どうなるのか…」とトニーに訊ねたという。
トニーは馬鹿げた話だとは思いながらも、そのクラプトンの言葉がいつまでも頭から離れなかった、と親しい知人に語っている。
クラプトンがメタルフロントのアイディアを提供したわけではないが、そんなたわいもない会話の中にひとつのヒントがあったのかもしれない。

こうして誕生したゼマイティスのメタルフロントだが、豪華で華やかな外観、強烈なインパクトと個性的なサウンドというだけではなく、「ノイズを軽減する」効果も考慮されていることはご存知だろうか?
70年代初頭は、現在ほどギターもアンプもノイズ対策が進んでおらず、アルミプレートでギターのボディトップを覆うという構造は、多少なりとも外来ノイズを軽減する効果があったと考えられる。

ロックサウンドが注目された70年代において、華やかで斬新な外観のメタルフロントは、その強烈な個性とともに時代を象徴する新たなアックスとして注目され、ギタリストの憧れる存在となっていった…。