世界で最も多くのギターを生産・販売したブランド「フェンダー」は、世界で最も多くの人々に愛されたブランドとも言える。
その創始者であるレオ・フェンダーは、世界初の量産化エレクトリック・ソリッド・ギターであるブロードキャスター(テレキャスター)を皮切りに、ストラトキャスター、プレシジョン・ベース、ジャズマスター、ジャガー、ミュージックマスターなど、その後の音楽シーン、楽器シーンに多大な影響を及ぼした製品を数多く開発した。

レオはギター毎に専用のオリジナル・デザインを採用しただけではない。
ピックアップの構造や斬新なトレモロユニットなどハードウェア類、ボディとネックをボルトで繋ぐという画期的なアイディアと斬新な生産方法は、その後のギター製作に革命をもたらした。

ベースと言えば大きなアップライト・ベースしか存在しなかった1950年代初頭に、ギタリストにも手軽に演奏ができるフレット付きのエレクトリック・ベース、プレシジョン・ベースを提案し、音楽シーンのあり方を根底から覆した。
さらに新たな発想のトレモロユニットを搭載したストラトキャスターは、次世代の音楽シーンを創造するための大きな起動力となった。
レオがテレキャスターの製作からストラトキャスターを完成させるまでの期間は僅か4年弱。
その間に彼はプレシジョン・ベースという奇跡の製品を生み出し、同時進行でいくつものアンプ類も開発した…。

レオが生み出した製品は、伝統的な楽器作りとは裏腹に全く新たな価値観を持っていた。彼が興味を持ったのは、華やかな装飾やデザインではなく、新たな機能性だった。
どうしたらこれまでに無い新たな機能を持った楽器が作れるのか…、それを究極なまでに突き詰めていた。
しかし驚くことに、一切の装飾類を省いたレオのギターは、機能性を最優先させることでたどり着いた機能美に満ちていた…。

そしてもうひとつ驚くことがある。
それは、レオはギターが弾けなかったこと…。
ギターの弾きやすさも、美しいサウンドも、トレモロユニットのフィーリングも、レオはストレートに感じられなかったに違いない。
しかし彼は、数多くのミュージシャンの意見や言葉に耳を傾ける心の目と耳を持っていた。
ギターが上手く弾けるからといって、必ずしも良いギターが作れるとは限らないし、またその逆も然りである。
レオは生涯ギターを弾くことは無かったが「新しいギターやアンプを開発したい」という楽器作りに対する情熱は、人一倍強かったことは間違いない…。