70年代のロックシーンに興味がある人であれば、当時ロンドンを中心に世界的なムーブメントを巻き起こした「グラム・ロック」というジャンルをご存知だろう(アメリカではグリッター・ロックと呼ばれていた)。
デヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージック、モット・ザ・フープルなど、ポップでグラマラスなサウンド、中性的なメイクやファッションで当時の若者達を夢中にさせ、音楽チャートを賑わせた。
当時そのムーブメントの中心となり音楽シーンを牽引していたアーティストが、T・レックスのマーク・ボランだった。
ティラノザウルス・レックスは、1967年にボーカル、アコースティック・ギターのマーク・ボランとパーカッションのスティーヴ・トゥックによって結成されたサイケデリック・フォーク・デュオとして登場した。
70年代に入ると同時に、4人組のロックバンドへと姿を変え、アーティスト名を「T・レックス」と改名して世界的な成功を収めた。

マーク・ボランは大のギター好きとしても広く知られ、レスポール・カスタムやレスポール・スタンダード、レスポール・スペシャル、フライングV、SG、ストラトキャスター、テレキャスター、ヴェレノ、ハミングバードなど、幾つものギターを愛用した。
T・レックスは、70年代初頭に4作のシングル曲を立て続けに全英No.1を獲得しているが、その栄光の記録が1972年のドキュメンタリー映画『ボーン・トゥ・ブギー』に記録されている。
その映画の中でマークは、入手したばかりのゼマイティス・メタルフロントを愛用し、グラマラスな演奏ぶりを披露している。
実はマークが使用したゼマイティスは、トニー・ゼマイティスが70年初頭に初めて製作した6本のメタルフロントの中のひとつと言われ、ゼマイティス・ギターとしても歴史的な1本だった。

「メタル・グルー」は72年5月13日に14位でチャート入りし、翌週には全英1位を獲得。印象的な楽曲とギターリフ、そして彼が手にしたゼマイティス・メタルフロントは、いつまでも多くのファンの心の中で輝いていた。
その後もマークは70年代の音楽シーンの中で豊かな才能を開花させたが、77年6月16日、ロンドン郊外のバーンズにおいて、ガールフレンドが運転するクルマが大事故を起こし、同乗していたマークは29歳と言う若さで帰らぬ人となった。
ちなみに、マークが愛用したメタルフロントは、その後ポール・マッカートニーの手に渡り、大切に保管されている。