ボディトップ全面をデュラルミンのプレートで覆ったゼマイティス・メタルフロントは、華やかな外観とロックテイストを感じさせるサウンドで多くのギタリストから広く支持されている。
とても斬新に思えるデザインだが、このモデルが誕生したのは今から約半世紀も前のことだ。
本来木製であるギターに、金属パーツやメタル装飾、更には本体そのものを金属で製作するという製作家達の試みは、実はエレクトリック・ギターの原点であることをご存知だろうか?

1920年代から30年代はアメリカを中心に世界的なハワイアン・ブームが巻き起こった。
ハワイアン・バンドは、多くの人々の前で演奏せざるを得ない状況にあった。
現在のようにエレキギターもPAも無い時代。
特にハワイアンに欠かせないスティール・ギター(本体を膝の上に寝かせて演奏するスライド専用ギター)のサウンドを「もっと大きくしたい」というプレイヤー達の願いは切実だった。
より大きなサウンドを求めて、当初ワイゼンボーンなどのスライド専用アコースティック・ハワイアン・ギターが開発され、1920年代末にはアルミニウムコーンを採用したナショナルのリゾネイター・ギターも登場した。

その数年後、1932年にエレクトリック・ギターの原点となるエレクトロ・ハワイアン・ギター、リッケンバッカー A-25とA-22が登場した。

RICKENBACHER A_22
RICKENBACKER A_22

このギターは、アンプを介すことでこれまでとは比べものにならないほど大きなサウンドが出せる画期的な楽器だった。
ネックからボディまでの全てがアルミニウムで作られ、その外観から「フライングパン」というニックネームで呼ばれた。
このスティール・ギターに使用されていた世界初のピックアップは、馬蹄形の構造からホースシューと呼ばれ、その後リッケンバッカー・ギターやベース(4001には現在も同タイプが使用されている)に搭載され、エレクトリック・ギターの時代が幕を明けた。

1970年代初頭に登場したヴェレノも、やはりボディとネック全体がアルミニウムで作られたメタル・ギターだった。
通称バルタン星人と呼ばれる先端が2つに分かれたユニークなヘッド形状が印象的だが、最初期にはペンギンを横から見たようなペンギンヘッドの製品もあり、それをかつてエリック・クラプトンが80年代まで所有していた。

「Vintage Guitar CLASSICS 」June 1996 より
「Vintage Guitar CLASSICS 」June 1996 より

70年代の後期、トラヴィスビーンやクレイマーからアルミニウム製ネックと木製ボディを組み合わせたギターやベースが発売された。
クリフォード・トラビスビーンとゲイリー・クレーマーは74年にカリフォリニアでトラビスビーン・ギターズを立ち上げた仕事仲間で、そのコンセプトやデザインには共通点が多い。
1997年にはクレイマーの特許を取得したヴァッカロ・ギターも登場した。

現在は、スティール製ボディを採用したジェームス・トラサルト・ギターズを始め、なんとオイル缶をボディに採用したボヘミアン・ギターズ、日本でも83年に誕生し現在も少数生産されているトーカイ・タルボなど、金属素材をギターの一部に使用したギターは数多く存在している。

このようにメタル素材を採用したギターの歴史は長く、現在も多くのギタリストに支持されている。杢目の見えるギターも美しいが、ステージでスポットライトを浴びるギターがシルバーに輝いているのを見たとき、ギタリストはついワクワクしてしまうのは、何故だろうか…。

Zemaitis

MFG-AC-24, Natural

彫金装飾を用いたメタル・フロント・モデルのMFG-AC-24は、ウェストのくびれが大きいシングル・カッタウェイのボディー・スタイルで、ボディーとネックに厳選されたアフリカン・マホガニー、フィンガーボードはエボニーを使用しています。