世界的なビッグ・アーティストの中にも、ゼマイティス・ギターの愛用者は数多い。
その中で最も長く愛用しているギタリストに、ザ・ローリング・ストーンズのロン・ウッドがいることは広く知られている。
ロンとイギリスのギター製作家、トニー・ゼマイティスが最初に会ったのは半世紀以上前の1969年で、ロンは当時フェイセズのギタリストとして活躍していた。
やはりフェイセズのベーシストであるロニー・レーンと共に、バンドのローディーだったピート・バックランドからトニー・ゼマイティスを紹介された。
トニーはそれまで、アコースティック・ギターを製作しており12弦モデルでは高い評価を受けていたが、70年代と新たな時代に向けて、エレクトリック・ギターの可能性を考えていた。
アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターでは共通点もあるが、基本的な仕様が大きく異なる。
その両方で評価されたギター製作家はほとんどいないが、製作意欲に溢れるトニーは何本かのプロトタイプを製作しながら新たなギター作りに挑んでいた。
そのプロトタイプの内の1本をロニー・レーンも入手し、フェイセズのステージではそれをロンが使用していた。

ロンがトニーから直接ゼマイティス・ギターを入手したのは1971年で、それは現在も愛用しているディスクフロントである。
このモデルは、以前弾いていたロニーが所有するプロトタイプに似たシングルカット・ボディだが、ボディの中央には大きなメタルディスクがセットされた、極めて印象的なデザインだった。
このディスクフロントと同じ頃に登場したギターが、ボディトップ全体をデュラルミンのプレートで覆ったメタルフロントである。
このモデルは最初に6本製作され、ロンはその中の1本を入手した(残念ながらそのメタルフロントは盗難にあってしまう)。
ロンはゼマイティス・ギターの持つ特別な存在感と楽器としての完成度にすっかり魅せられ、ボディトップ全面をマザー・オブ・パールで覆った最初のパールフロントを入手(このギターもやはり盗難にあう)、さらに別のメタルフロント(これもまた盗まれる!)やウッドフロント、ハートホールのアコースティック・ギター、ハートホールのアコースティック・ベース、アコースティック 12弦ギターなど様々なタイプのゼマイティス・ギターを入手した。

2006年に、ロンがザ・ローリング・ストーンズで来日した際にも、日本製のディスクフロントや3シングルコイル・ピックアップを搭載したS-22BP/3S、24フレット仕様のS24MTといったメタルフロント・モデル、さらにはロン・ウッドのために新たにデザインされたMF501DCカスタム・フェニックスというメタルフロントが使用された。
ゼマイティス・ギターと出会って50数年、ロン・ウッドのゼマイティス・ストーリーはまだまだ続いている…。