以前「打ち上げに行く前に…」というタイトルで、ライブ後のギターのケアに関して紹介した。
今回はフィンガーボードに関するケアについて考えてみよう。

ギターのフィンガーボードは、主にローズウッドもしくはエボニー、フェンダー系のギターであればメイプルも使用されている。
メイプル・フィンガーボードの場合は基本的に塗装されているので、ケアといっても使用後にボディと一緒に乾いた布で拭いておけばOK。
しかし、ローズウッドやエボニー・フィンガーボードの場合は、塗装されていない製品がほとんどで、それなりのケアが必要となる。
塗装されていないフィンガーボードは、汚れが付着しやすく汗や湿気が染み込みやすい。
冬の乾燥したシーズンには、水分や油分が抜けることでひび割れが生じたり変形することがある。
これはアコースティック・ギターのブリッジも同様である。
日本の気候は寒暖の差が激しいことで知られるが、湿度も大きく変化している。
日本は湿度が高いと思っている人は多いようだが、それは春から秋までのことで、冬場はかなり湿度が低く40%を切ることも珍しくない。
その湿度の急激な変化は木材にとって厳しい環境となる。

そんなフィンガーボードを乾燥から守り、トラブルを未然に防ぐためのケアグッズが色々なメーカーから発売されている。
昔から多くのギタリストに愛用されている製品としては、各社から発売されているオレンジ・オイルやレモン・オイルなど「柑橘系天然オイル」が広く知られている。
これらはフィンガーボードの表面に付着するヨゴレを落とすと同時に、僅かに木の内部に染み込むことで繊維に潤いを与え、汗や湿気が染み込むのを抑える効果がある。
これを1~2ヶ月に一度フィンガーボードの表面に薄く塗り、30分ほど乾燥させてから軽く拭くだけの簡単な作業で十分ケアができる。

ハイエンド・ギターの中には、ラッカーではなく「オイル・フィニッシュ」を施した製品がある。
オイル・フィニッシュはエゴマオイルやアマニ油などの天然素材を主体とした塗料による塗装で、木肌に薄く擦り込むように染み込ませる塗装方法である。
一般的なウレタン塗装やラッカー塗装のように塗面が木材の表面を覆っていないので、開放感のある繊細な響きが得られる。
この塗装用のオイルをフィンガーボードに使用することも有効な方法と言える。
ベタつきや匂いなどはほとんどない。

そして近年注目されているのが「蜜蝋ワックス」だ。
これは植物系の天然オイルに蜜蝋(ミツバチが巣を作る時に出す分泌物)を混ぜたクリーム状のワックスオイル。
布を使って薄く擦り込むように塗り、30分ほどして乾燥させてから布で乾拭きする。
撥水性が高く、ベタつくことも無くサラリとした手触りに仕上がり、光沢が出る。
ワックスにより光の乱反射が抑えられるため、木材の杢目がはっきりと浮かび上がり、エボニーなどは黒い樹脂のような光沢になる。
ニオイはほとんどなく、高級感のある仕上がりが特徴となる。
蜜蝋成分は硬化するためレモン・オイルなどの植物性オイル以上に効果が持続するのも特徴のひとつである。
蜜蝋ワックスは昔から木製高級家具やフローリングの手入れ用品として欧米で広く使用されているが、近年はそれをギター用にアレンジしたケア製品としていくつかのブランドから発売されている。

写真は「ファラデイ」という日本の蜜蝋専門ブランドがハンドメイドしている蜜蝋ワックス。
上質な天然素材だけを使用して、丁寧に作られている。

フィンガーボードにひび割れが生じてから泣き言を言っても手遅れ。
ギターのケアは早めに始めることがポイントだ。