エリック・クラプトンは、1999年と2004年にNYクリスティーズで行ったギター・オークションに続いて、2011年にもギター・オークションを行っている。


3月9日に行われたそのオークションは、クリスティーズではなくやはりオークションの名門、ボナムス・ニューヨークで行われた。
「ザ・エリック・クラプトン・セール・オブ・ギターズ・アンド・アンプス・イン・エイド・オブ・ザ・クロスロード・センター」とタイトルされたそのオークションでは、クラプトンが所有するプライベートな楽器コレクション138ロットが次々に競売にかけられた。
今回はその中から、ひとつ気になるアコースティック・ギターを紹介する。

14番目のロットで登場した写真のギターは「2005 ZEMAITIS Custom Acoustic」とタイトルされたゼマイティスのカスタムメイド・ギター。
ゼマイティスは、英国のルシアー、トニー・ゼマイティスによって1960年代半ばからハンドメイドされ、数多くの有名ギタリストに愛されたが、2002年にトニーは他界。
その後ゼマイティスは、ブランドホルダーとなった神田商会とゼマイティス・ギター・カンパニーによって企画、製作され、現在に至っている。

写真は、2005年にエリック・クラプトンのために特別にデザイン、製作されたゼマイティスのカスタム・ギター。
クラプトンは1992年の『アンプラグド』以降、マーティン000モデルを愛用しているが、いくつか発売されたシグネチャー・モデルも全て000ベースでデザインされている。
写真のゼマイティスは、外観が個性的であるため実際のサイズが分りにくいが、ボディの最大幅、奥行き、スケール、ネック幅などギターを演奏する際に弾き手が触れる部分を、全て000と同じサイズに設定している。
ネックグリップも彼のシグネチャー・モデルを採寸して再現するなど、クラプトンの弾き心地を意識したデザインが採用されている。

ボディ材はトップがスプルース、バック&サイドがアフリカン・ブラックウッド(エボニーに似ているがエボニーはカキの仲間、ブラックウッドはローズウッドの仲間)、ネックには1ピースのホンジュラス・マホガニー、フィンガーボードにはエボニーを使用。
ユニークなのはボディ内部だ。
写真で分かるように内側がゴールドに輝いている。
これはゴールドカラーの塗装ではなく、日本の伝統工芸として知られる金箔を漆で貼付けた特殊加工。
こうすることで、日本らしい華やかさと同時にややリバーブ感のある独特なトーンを作り出している。

そしてもうひとつユニークなのが、ボディサイドの特殊な形状。
ボディを正面から見ると低音弦側が14フレット仕様、高音弦側が16フレット仕様になっているが、バックはどちらも15フレットでジョイントされている。
つまりこのギターは、基本的に15フレット・ジョイントで、サイドをねじって取り付けることで、トップ側を14フレットと16フレットで接合したかなり特殊なデザインになっている。

さらにボディの外周には、ヴァイオリン・エッジと呼ばれるサイド側に3ミリほど飛び出したハワイアンコアのトリムが設置され、独自な高級感と古典的なイメージを演出。
またゼマイティスならではのハート型サウンドホール部分も、厚みのあるハワイアンコアをハート型の輪にくり抜き、それをホール部分に取り付けることで、サウンドボード部分からトップの振動が逃げにくい構造を採用している。
エボニーのスマイル・ブリッジはやや短めであるが、ゼマイティスらしさをアピール。

ヘッドストックは、一見伝統的なゼマイティス・デザインにも見えるが、全体的にやや細身に仕上げることでよりシャープなイメージにアレンジ。
フィンガーボードと同じエボニーの突き板をセットし、ダニー・オブライエンが彫金したダイア型のメタル・エンブレムとエリックの名前を彫込んだトラスロッドカバーがゼマイティスらしさをアピールしている。

このカスタム・ギターは日本を代表するギター製作家、内田光広氏が特別にデザイン・製作したもので、発案から1年近い製作期間を経て2005年に完成した。
様々な斬新な仕様を合わせ持ちながらも、豊かなアイディアと共にベテラン・ルシアーならではの高度な製作技術が垣間見える。
エリックはこのギターを6年間コレクションとして所有したが、クロスロード・センターの運営資金を捻出するために手放した。