[ 1934 D’ANGELICO ]

 近年はモダンなソリッド・ギターやセミアコースティック、フラットトップなど様々なモデルを発売する総合ギター・ブランドであるディアンジェリコは、長い歴史を持っている。
世界最高峰のルシアーと称されたディアンジェリコは、1932年にニューヨークでギター製作の工房を立ち上げ、1964年に他界するまでの間に1164本のアーチトップ・ギターを製作した。
彼の下で働いたルシアーのジミー・ダキスト(1935~95年)はその後独立し、やはり世界的なギター製作家として高い評価を得た。

 写真は、1934年に製作されたディアンジェリコのアーチトップ・モデルで、工房が誕生してまだ2年ほどしか経っていない時期に製作された最も初期の作品。
まだディアンジェリコ最大の特徴となるアールデコ風のデザインなどが確立される前の製品で、ギブソンの影響が強く感じられる。
写真のギターにはモデル名も書かれていないが、若き日のディアンジェリコの力量が分かる希少な1本である。

 スプルースとメイプルを削り出して作られたボディは、当時のギブソン L-5より1/2インチ幅広い16-1/2インチを採用。
ヘッドストックは、1920年代の一時期ギブソンが採用していたスネークヘッドと呼ばれる先端に向かって細くなるデザインとよく似ており、こんなところにもギブソンからの影響が感じられる。

 ボディには深いフローレンタイン・カッタウェイが見られるが、これはオリジナルの仕様ではなく後から改造されたもので、ディアンジェリコがカッタウェイ仕様を採用したのは、1940年代後半からのことだ。
ディアルモンド製のピックアップやエレクトリック・アッセンブリ、ピックガードなどもオリジナルの仕様ではなく後から取り付けられたものだが、ゴールドのグローバー・テイルピースはオリジナルの仕様である。

 写真のギターはエリック・クラプトンがプライベート・コレクションとして所有していたものだが、この他にもエクセル・モデルなどを所有していたところを見ると、自宅等でディアンジェリコを楽しんでいたようだ。

 このギターをライブなどで使用したことはないが、ギターケースには「デレク・アンド・ザ・ドミノス フラジャイル」という黄色いステンシルがプリントされている。
これは1956年製のストラト、ブラウニー(1999年のギター・オークションで競売)のケースと同じステンシルだが、クラプトンはこのギターを70年頃から所有していたのだろうか?