一口に「ドレッドノート」といっても、マーティンとギブソンでは、ボディの形状がやや異なっている。
マーティンはボディの肩の部分が少し角ばっているが、ギブソンのJ-45やJ-50などはマーティンより撫で肩のデザインで、一般的に「ラウンドショルダー・ドレッドノート」と呼ばれている。
ラウンドショルダーは、ギブソン・アコースティックを象徴するデザインとして知られ、マーティンとは異なるギブソンらしい佇まいとして人気がある。
では、そんなギブソン・ラウンドショルダーは、いつ頃誕生したのだろう。
今回はそのルーツとなるモデル「ギブソン J-35」という珍しいヴィンテージを紹介しよう。

 写真は1930年代後半に生産されたジャンボ35というレアモデル。
ギブソン社が誕生した1900年代初頭は、ギターがそれまでのガット弦からスティール弦へと移り変わる過渡期にあたる。
スティール弦の採用は、ガット弦と比べて強いテンションが得られるため、より大型ボディの採用を可能にし、各社から大型モデルが登場するようになった。
当時はPA機器が未発達で、まだエレクトリック・ギターも存在しておらず、大型ボディのギターによる大きなサウンドは、楽器として重要なポイントでもあった。
そして1934年に、ギブソンから登場した当時最も大型のモデルが「ジャンボ」だった(今年は1934年製ジャンボのリイシュー・モデルも発売された)。
これは当時発売された14フレット・モデル、マーティン D-18に対抗する製品としてD-18を上回る16インチの大型モデルとして誕生した(マーティンD-18は15.6インチ)。
そしてそのジャンボは、1936年に若干の仕様変更を経て「ジャンボ-35/J-35」という写真のモデルへとシフトした(J-35の価格は35ドル)。
そしてJ-35の製品コンセプトは、6年後の1942年に「J-45」へと引き継がれ、J-35はオリジンとしての役目を終えた。

 J-45は、同年に登場した姉妹モデル「J-50」と共に、幅広いユーザー層に支持されながら、やがてギブソンを代表するフラットトップ・モデルへと成長。
特に60年代以降は、アタック感のある切れの良いサウンドがロック系やバンドのギタリストからも強く支持され、ギブソン・アコースティックのイメージをも担っていった。

 写真のJ-35は、1930年代後半に生産された希少なモデル。
J-45と共通するラウンドショルダー・ドレッドノートで、当時の標準となるレクタンギュラー・ブリッジ(長方形ブリッジ)が時代を感じさせる。
戦前のギブソンらしいダークなブラウン・サンバーストにフィニッシュされたボディは、アディロンダック・スプルース・トップとマホガニー・バック&サイド。
J-35には、トーンバーが3本のタイプと2本のタイプがあり、写真は初期に生産された3トーンバー・タイプ。3トーンバーはノンスキャロップ仕様で、後期のスキャロップ仕様の2トーンバーと比べて、より立ち上がりの良い力強いサウンド・キャラクターが特徴となる。

 J-35は、数あるギブソン・アコースティックの中でも最も歴史的で希少なモデルのひとつ。
写真は生産から85年近い歳月を経た製品であるが、現役の楽器として美しいヴィンテージ・サウンドを聴かせている。
近年はヴィンテージ・ギター専門店でもほとんど見かけることは無く、ヴィンテージ・ギター・マニアのコレクターズ・アイテムの筆頭となっている。