ジャズ・シーンを中心としながらも、ジャンルの枠に捕われない音楽活動を続ける天才ギタリスト、パット・メセニーをご存知だろうか?
彼はアイバニーズのジグネイチャー・モデルPM-100をはじめ、ギブソンES-175、改造されたいくつものGRギター・シンセサイザー、コーラルのエレクトリック・シタールなど、個性的なギターを多用していることでも知られている。
その中でも最も個性的でインパクトがあるギターが、今回紹介するピカソ・ギターだ。

 まずは写真をご覧頂きたい。
初めて見た人は思わず「なんだコレ!?」という言葉が出てしまいそうな、超個性的なデザイン。
確かにパブロ・ピカソの代表作(「アヴィニヨンの娘たち」1907年)を思わせるデザインである。
このギターは、カナダのトロントに工房を構える女性ギター製作家、リンダ・マンザーがパット・メセニーのために特別に製作したギターで、パットはこれまでに何本ものマンザーのカスタム・ギターを愛用している。
彼女は、パットからソロパフォーマンス用に「できるだけ多くの弦を張ったアコースティック・ギターを作って欲しい」というリクエストを受け、このギターをデザインした。
パットの要望通り、ギターには何と42本もの弦が張られている(写真では1本外されて41本)。

 それでは、ギターの各部分を見ていこう。
全体の中心にあるのが、メインの6弦ギター。
スケールは不明だが、ブリッジの位置から推測するとかなりショート・スケールで、ブリッジにはサドルの手前にギターシンセサイザー用のピックアップもマウントされている。
しかも張られている弦は、2弦から巻弦という激太セット!

 その左側にあるネックは、一見フレットレスの12弦ギターのようにも見えるが、実際はギターではなく6弦ハープを2セット組み込んでいる。
向かって左側のハープは巻弦、右側のハープはプレーン弦が使用され、それぞれ6弦づつ同じゲージの弦が張られ、スケールの違いで音階を作るようだ。

 2つのサウンドホールを繋ぐような形で12本のハープ弦がセットされている(写真に張られているのは11本)。
これは下から上に向かって弦のゲージが太くなっており、音階に設定できる。

 そしてボディボトムに12本のハープが組み込まれている。
このハープは4本のベースパートと8本のメロディパートに分かれており、異なるゲージが使用されている。
各ギターやハープのブリッジ部分にはピエゾ・ピックアップがセットされており、それぞれのミックスが可能である。

 ピカソ・ギターが完成したのは1984年。
パット・メセニーは実際にステージでこのギターを使用したソロパフォーマンスを頻繁に披露しており、来日公演で彼のピカソのソロ演奏を観た人もいるだろう。

 エレクトリック・ソリッド・ギターであれば、ボディに何本の弦を張ってもさほど大きな問題は無いが、アコースティック・ギターの場合は強度と重量、そして演奏性などの問題もあり、それらを考慮しながらの設計・製作をしなければならない(ピカソは本体の重さが一般のアコースティック・ギターの約3倍にあたる7kg弱もある)。
ハープ部分の弦のテンションは極力ボディのリムに掛かるように設計されている。

 ちなみに写真のピカソはパット・メセニー本人のギターであるが、この他にも世界的なギター・コレクターとして知られる故スコット・チナリーもリンダ・マンザーにピカソ・ギターをオーダーしている。