近年はインターネットの普及により、様々な楽器の情報をいつでも手軽に知ることができるが、インターネットが無かった時代は楽器店の店頭に置かれたカタログやパンフレットが製品を知る有力な情報源だった。
各メーカーは新製品を広く知ってもらうために、総合カタログや製品の発売に合わせて制作したパンフレットやフライヤー、ポスターなどを配布して、自社の製品をアピールしていた。
今回から数回に亘って、ネットが無かった時代に制作されたギター・カタログを紹介しよう。
現在では名器と呼ばれるギターが誕生した時代、またすでに生産終了となった短命のモデルが登場した時代。
メーカーはどのようなカタログでプロモーションを行ったのだろう?
知っているようで知られていない「ヴィンテージ・ギターのレア・カタログの世界」を紹介しよう。

[ 1973 GIBSON Les Paul Recording & Les Paul Triumph Bass ]
 レスポール・モデルの生みの親として知られるレス・ポールは、1940年代からロング・サステインを求めて様々なエレクトリック・ギターのアイディアを提唱していた。
その結果1952年に誕生したのが、ギブソン・レスポール・モデルだった。
このモデルはレスのアイディアを具現化していたが、彼はこの市販モデルに満足すること無く、ロー・インピーダンス・ピックアップを採用した次世代のエレキギターの開発を行った。
ノイズが少なく、幅広いトーンを自在に作り出せる新たなピックアップ/アッセンブリをギブソンと共同で開発し、レス本人はそのプロトタイプを愛用した。
レスが使用するそのカスタム・ギターを市販用にアレンジしたモデルが、1969年に登場したレスポール・プロフェッショナルとレスポール・パーソナルである。
しかし、この2モデルは特別に高価だったこともあり実売は極めて少なかったため、もう少し求めやすい価格帯のモデルの開発が進められた。
そしてその2年後、プロフェッショナルとパーソナルのコンセプトを受け継いだ新たなモデル「レスポール・レコーディング」が誕生した。

 写真は、そのLPレコーディングとそのベース・バージョンとなる「レスポール・トライアンフ・ベース」を紹介した1972年製のパンフレット。
A4版変形4ページのシンプルな体裁だが、当時画期的だったロー・インピーダンス・ピックアップをキャッチコピーに謳い、なんと透明なソノシート(アナログレコードの簡易バージョン)まで付属したかなり力の入ったパンフレットだ。
LPレコーディングはノイズレスで多彩なサウンド作りが可能だったが、その分コントロールはかなり複雑だったため、その説明も分かりやすく紹介されている。

 しかし、このギターを使用するには専用のギター・アンプが必要なこともあり、当時レスポール・モデルを愛用していたロック系ギタリストからはそっぽを向かれ、レスポール・パーソナルほどでは無かったがセールスはかなり厳しい結果となった。
その後改善バージョンも登場したが、70年代末で生産は完了。
エレクトリック・ギターとしてある意味で理想を求めた製品ではあったが、ユーザーの心はそれだけでは掴みきれなかった…。