[ 1929 MARTIN  ]


 今回紹介するヴィンテージ・カタログは、1833年からその歴史が始まったマーティン社の1929年に制作された製品総合カタログ(写真はそのレプリカを撮影)。
約100年近く前に作られたカタログだが、48ページの本文に4ページのカバーを合わせたトータル52ページというボリュームで、この時代に50ページを越えるギター・カタログを作っていたこと自体に驚かされる。
カタログは縦長の手のひらサイズで、基本的に見開きごとにひとつのモデルを紹介している。
左ページがモノクロの製品写真、右ページがその製品の紹介や仕様、価格などが表記されている。
当時マーティンではギターはもちろんのこと、ウクレレやテナー・ギター、ティプレ、マンドリンなども生産しており、様々なラインナップが掲載されている。
1920年代は、マーティン・ギターがガット弦からスティール弦に仕様変更されたばかりで、新たなスティール弦ギターを積極的にアピールした時期であるが、ドレッドノート・モデルが発売される直前でもある。

 カバー、目次、ブランドの歴史の紹介に続いて、最初に掲載されているのはメインとなるギター。


小型のモデルから、スタイル17(2-17)、続いてスタイル18(0-18、00-18、000-18)、スタイル21(0-21、00-21)、スタイル28(0-28、00-28、000-28)、スタイル42(0-42、00-42)、スタイル45(0-45、00-45、000-45)が整然と掲載されている。
続いて当時人気があったスライド用ハワイアン・ギター(0-18-K、28K、40H)を掲載。

 6弦ギターに続いて、テナー・ギター(17-T、5-17T、5-21T、2-18T、2-28-T)を掲載。


テナー・ギターとは4弦ギターのことで、当時流行していたテナー・バンジョー(4弦)のプレイヤーがそのまま弾けるギターとして開発され、1920年代から60年代まで生産された。
テナーに続いて掲載されているのがプレクトラム・ギター(1-17P、1-28P)。
これもやはり4弦だが、テナー・ギターよりスケールが短くチューニングも異なる。
当時としてもかなり珍しい存在で、現在ヴィンテージ市場でも見かけることは無い。

 ギターに続いてティプレ(T-17、T-18、T-28)。
南米のフォーク・ミュージックなどで使用される4コースの10弦楽器(2弦、3弦、3弦、2弦)で、ボディはコンサート・ウクレレほどのサイズ。
60年代まで生産されていた。

 続いてウクレレ。


テナー・ウクレレ(1-T)、コンサート・ウクレレ(1-C、1-K、2、2K、3、3K)、ソプラノ・ウクレレ( 0、1、1K、2、 2K、3、3K、5K)が掲載されているが、販売された製品は9割以上がソプラノ・サイズで、コンサート・サイズは極めて数が少ない。

 最後に掲載されているのが当時ギター以上に人気を博していたマンドリンとマンドセロ。


Aマンドリン、A-Kマンドリン、Bマンドリン、Bマンドセロ、Cマンドリン、Eマンドリン、カーブドトップの20が紹介されている。

 マーティンというと、トラディショナルでスタンダードなモデルを長年生産してきたイメージが強い。
しかし、100年前のカタログに掲載されているモデルの4/5は現在生産されておらず、マーティン社もその時代の音楽シーンと呼応した製品作りを行っていたことがわかる。

 ちなみに、カタログには価格も書かれており、1929年当時の価格は000-28が85ドル、000-45が170ドル、そしてウクレレのスタイル0が11ドルだった。ヴィンテージ・ファンには、夢のような価格である…。